バブル

人物伝

伝説の高利貸し 日本百貨通信販売・杉山グループ総帥 杉山治夫の生涯 その5

預金証書を武器にノンバンクから巨額の金を獲得する

はる坊です。

その4では、杉山治夫がどのように金融債権を回収していたか、そして、限りなく残酷にみえる杉山の意外な一面、そしてバブル期の不動産への進出についてご紹介しました。

続いて、杉山治夫の生涯をみていきましょう。

杉山の新たな標的、それはノンバンクでした。

ノンバンクは百戦錬磨の杉山にとって、格好の狩り場となったのです。

ノンバンクは銀行に比べて、貸す相手の身元審査も緩く、融資可能と判断すればドンドン金を貸しました。

担保としては土地が一番確かですが、杉山がおこなったのは、〝銀行預金証書〟による巨額の〝パクリ〟でした

時は、バブル経済期、金あまりで融資先を血眼で探していたノンバンクは、杉山にとって、赤子を捻るような存在でした。

もちろん、杉山は詐欺罪に問われないように、合法・非合法スレスレに身を置いて、完全金融犯罪を目論みます。

杉山がまず取り込んだのは、銀行員でした。

高額の給与を得ている彼らですが、毎日のように億単位の融資話が決まっていく中で、自らの収入に不満を持っていることに、目を付けたのです。

そんな不満を抱えている銀行員を、杉山は口八丁で持ち上げ、酒と女性の接待を繰り返して、取り込んでいきます。

すっかり杉山の忠実な僕と化した銀行員は、支店長に、杉山グループの信頼度や将来性を吹き込んで、大型の貸付先として有望であると吹き込みます。

無論、杉山もその支店に相当額の預金をおこないます。

そうすると、支店長との付き合いも始まります。
すでに、手先となっていた銀行員から、支店長の個人情報を掴んでいた杉山は、接待に加えて、封筒に入れた100万円の裏金を渡します。

最初は、淡々と杉山に接していた支店長も、度重なる接待とその都度渡される裏金によって、杉山に取り込まれていきます。

3ヶ月が過ぎると、支店長の金銭感覚も狂いはじめ、杉山の裏金を頼りにするようになりました。

そこからが、杉山の本領が発揮されるときです。
預金証書を多めに作ってくれるよう、耳元に囁くのです。

一瞬は、躊躇する支店長ですが、一度くらいはいいかという気持ちで、翌日には、預金証書を杉山に渡すことになります。
これから、杉山の餌食となることも知らずに・・・

預金証書を偽造して、それを担保にノンバンクから金を借り、それがバレれば即逮捕ですが、杉山は本物の預金証書を、現役の銀行員に用意させていたのです。

その預金証書の金額は、実際の預金証書の数百倍の額が記入されていました。

杉山は、この預金証書を担保に、ノンバンクから巨額の融資を受けます。

利子の返済はすべて手形によっておこないました、最初は500万円程度、そしてノンバンクからの信用度を深める為に、1000万円、2000万円、3000万円、5000万円と額を上げていきます。

ノンバンクの金利は銀行に比べて高額ですが、杉山はこの金利を気前よく払います。ノンバンクの幹部にも、杉山は例の接待攻勢で近付いていきます。

杉山率いる杉山グループの傘下企業は無数に存在しました。

その傘下企業に銀行の預金証書を担保にノンバンクからどんどん融資をさせていったのです。

やがて、銀行の支店長からは泣きが入ります。
これ以上、預金証書の件は、勘弁して欲しいと。

ここで杉山は本性を現して、支店長に預金証書をドンドン持ってくるように迫ります。

いつのまにか、杉山との立場が完全に逆転していたことを知った支店長は青ざめながら、あらためて自分の置かれた地位が断崖絶壁にあることを悟ります。

支店長は、杉山のいいなりになる駒に過ぎなくなっていました。

杉山グループ傘下の企業は、ほとんどが実態の経営状態にないダミー企業でした。

あるとき、そのダミー企業群から相次いで不渡り手形が乱発されます。

1989年、総額1200億円の巨額の不渡り手形を出して、ダミー企業はどんどん偽装倒産をしていきました。

杉山は、1200億円の巨額資産を得たことになります。

被害にあったノンバンクは20数社に及ぶと杉山は語っていますが、杉山自身にどこまで良心の呵責があったかどうか。

この件に関しては、羊が狼に喰われるのはあたりまえだと思っていたと感じます。

大阪の女相場師と呼ばれた料亭経営者・尾上縫との違い

バブル経済期に、大阪で女相場師と呼ばれた尾上縫という女性がいました。

1930年に奈良県で生まれていますが、生い立ちは貧しいものでした。

結婚生活にも破れ、料亭の仲居として過ごす中で、関西の有力財界人のお眼鏡に叶い、自分の料亭を構えるまでになります。

尾上は、一介の料亭の女将でしたが、博才のあった女性のようで、ギャンブルやどの銘柄の株が上がるかなど、次々に当てては、周囲を驚かせていたようです。

そしてバブル期に突入すると、大阪・北浜では、

「あの料亭の女将が上がると言った株は必ず上がる」

と噂されるようになり、証券マンたちが彼女の元へ日参するようになります。

尾上は、後ろに証券マンたちを跪かせては、祈祷をおこない、

「○○株は上がるぞよ」

「○○株は下がるぞよ」

と、まるで神がかり的な存在であるかのように見せては、預金証書を担保にノンバンクから、株式投資用の資金を借り集めて、派手に儲けていました。

バブル期は、株価がどんどん上がっていった時代です。
そんな、わけのわからないまじない師のような真似をしなくとも、株式投資で利益を得ることは簡単だったはずですが、自らの力を大きく見せることと、大勢の男たちが自分に跪く快感に、尾上縫は溺れていきました。

尾上も預金証書を担保に、ノンバンクから資金を借り入れていましたが、この預金証書は、偽造したものでした。

完全な詐欺です。

バブルが弾けた1991年8月13日、尾上縫は逮捕されました。

金融機関からの総借入額は何と2兆7700億円。
偽造した架空預金証書の総額は7400億円に上ったといわれ、うち東洋信用金庫は、この巨額詐欺事件が主因となり経営破綻しました。

結果、尾上縫は、破産手続きをおこないますが、その額は負債総額4320億円という個人としては史上最高額でした。

尾上はその後、実刑12年が確定。

仮釈放後の2014年に亡くなっています。

さすがの杉山治夫も、尾上がでっち上げた架空預金証書の総額には驚きを隠せなかったと語り、バブル経済についても、

「所詮は、バブル。いつしかみずからもはじけて消える。はかないものだ」

という感想を残しています。

バブル後も生き残った杉山治夫 そして全国金満家協会

バブル経済崩壊で、次々と名を馳せた人々が破滅していくなかで、杉山治夫はしぶとく生き残ります。

しかし、1990年6月25日に恐喝事件の共犯として逮捕された経験を持っています。

この件について杉山は、

「事実無根だった」

と語り、連日朝6時から深夜12時までに及ぶ取り調べにも抵抗します。

また、毎日、500万円から5000万円の金を差し入れさせて、弁護士費用が潤沢にあることを示した上で、7人の敏腕弁護士による弁護団を結成、杉山本人も一切食事を取らないハンガーストライキをおこなって、検事たちを慌てさせます。

独房に入れられていたとき、久々に味わうひもじさに、杉山は極貧時代を思い出し、感傷的な気持ちになったと語っています。

「そういやあ、わしも昔は庶民やったんや・・・。いやいや、庶民よりももっと低い生活をしていたんや・・・。いつのまにか、そのときのことを忘れかけていたのかもしれんなあ」

結果、7月16日。

杉山は不起訴処分となって釈放されます。

この件に関しては、無実でしたが、杉山はまったく〝シロ〟の人間ではありませんでした。

1985年に、杉山は550億円の脱税容疑で、国税庁に踏み込まれたことがあります。
しかし、脱税の時効を迎えていた為、結局は、脱税の罪に問われることはなかった、と語っています。

また、バブル期には〝株式会社 全国金満家協会〟という会社を立ち上げ、〝驚異の高収益事業〟として、資金を集めます。

総資産550億円 配当率 年1割以上保証、1989年・1990年は連続配当率2割をうたいました。

杉山の手掛けていたビジネスからすると、出資者から年に1割~2割の配当を支払っても、杉山の元には、余りある巨額の金が舞い込んでいたのでしょう。

自らを〝金儲けの生き神〟と称した杉山治夫。

1992年に放送を開始した『浅草ヤング洋品店』(通称『浅ヤン』のちの『ASAYAN』)にも、愛人兼本妻(結局、愛人なのか本妻なのかどっちだ?)のゆかりさんという女性とともに登場しています。

このあたりまでが、杉山治夫の人生が輝いていた時代といえると思います。

人間には、その能力を最大限に活かせる期限があると、私は考えています。
いかに恵まれた能力や才能を持っていても、時間とともに消費されていきます。
また、時代も変わっていきます。

ここらで引退宣言をして、余生を過ごせば良かったのかもしれないと感じます。

例えば、これまでの経験を語りおろして小説や漫画原作にすれば、リアリティのある面白いものができたのではないかとも思います。

しかし、持って生まれた杉山の本能は、留まることを知りませんでした。

2002年3月21日 杉山治夫逮捕。そして獄中生活へ

時代は流れ、2002年3月21日に杉山治夫は逮捕されます。

偽造した借用証書を使用して民事訴訟を起こし、相手から金銭をだまし取ろうとした訴訟詐欺の疑いでした。

杉山治夫64歳でした。

公判で、杉山は暴れに暴れます。

被告人席に座らず、傍聴席に向かって、「おまえのせいだ」と叫び、果てには「俺は天皇の孫だ」とまで、法廷にその叫び声を響かせます。
公判は休廷を挟みながらおこなわれました。

杉山は、長期間の実刑判決が下ることを、その法知識から確信していたでしょう。

少しでも、刑を軽くする為、あわよくば逃れる為、精神異常、精神耗弱状態にあることを装いたかったのかもしれません。

しかし、それは無駄なあがきでした。

2003年4月17日、杉山治夫に対して東京地方裁判所は懲役7年6ヶ月の実刑判決を言い渡しました。
求刑は8年でしたが、ほぼ求刑どおりの判決が出たことになります。

収監された杉山は、2009年に癌で死亡します。
獄中死でした。

その死は、公にされることはありませんでした。

理由として、杉山は多くの愛人を抱えており、そのあいだには子どもも儲けていたようです。
いわゆる相続問題を表に出したくなかったことが考えられます。

そして、現在・・・

杉山治夫亡き後、杉山グループの企業はこの世からなくなっています。

日本百貨通信販売も全国金満家協会も登記簿は既に閉鎖されています。

杉山が稼ぎに稼いだ巨額の資産も、いまでは散逸しているのではないでしょうか。

獄窓で杉山が何を思っていたか。

癌による死の寸前、杉山の脳裏によぎったものはなにか。

それを知りたい気持ちはありますが、知る術はないでしょう。

極貧の生い立ちから商売人として成り上がるも2度の倒産を経験して、金融業にばく進していった人生。

極悪人と自他ともに認め、金と刺激を求め続けた71年間の生涯でした。

杉山治夫の名言

最後に、杉山治夫が残した言葉から、名言と呼べるものを選んでみました。

案外、まともというか、金科玉条にしてもいいくらいのことを言っています。

「会社が潰れても、別会社を作ればいくらでもチャンスは転がっている。わしもここまで来るのにたくさんの会社を潰してきた」

「杉山流金銭哲学を伝授しよう。傘一本の理論。こう呼んでいるのがわしの根本的金銭哲学だ。雨の日に傘を持ち合わせていない人は、傘を買おうとして平気で財布を開いてしまう。これでは金を残せるわけがない。雨の日には傘は落ちてはいない。ならば晴れの日はどうだ。手持ち無沙汰になったり、いらなくなった傘が無造作にそこらじゅうに捨ててあるではないか。晴れの日に傘を拾い、雨の日に使う、これが傘一本の理論だ」

「ルンペンを見習うことだ。連中のほうがあなたよりも金を残しているかもしれない。衣食住すべてただの生活をしているのだ。ちょっとでも働けば金が残る計算になる。ルンペンになった気になればなんでもできる」

「金はないところには集まらない。金はあるところに集まるものだ。さみしがり屋の金どものために、まずは彼らの友だちを作ってやることだ。それがいつのまにか増えて、次へとステップを踏ませてくれる」

「金が金を呼ぶ。たまったらわしのようにマネーゲームと思って、何かをするもよし、負けても命をとられることはめったにない」

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
特に、その1から読み続けてくださった方には、厚く御礼申し上げます。

杉山治夫の生い立ちから知りたい方は、こちらからお願いいたします

日本百貨通信販売・杉山グループ総帥 杉山治夫の生涯 その1

その2・その3・その4の杉山治夫の記事を読んでくださる方は、こちらからお願いいたします。

その2

日本百貨通信販売・杉山グループ総帥 杉山治夫の生涯 その2

その3

日本百貨通信販売・杉山グループ総帥 杉山治夫の生涯 その3

その4

日本百貨通信販売・杉山グループ総帥 杉山治夫の生涯 その4

※参考文献・一部引用

杉山治夫『実録 悪の錬金術―世の中金や金や!

杉山治夫『ドキュメント新 悪の錬金術―世の中・金や金や!
(※杉山治夫の自著のなかでは、この本が一番のおすすめです)

杉山治夫『ドキュメント 新・悪の錬金術―世の中・金や金や!杉山治夫・自叙伝

本橋信宏『悪人志願

本橋信宏『心を開かせる技術

人物伝

伝説の高利貸し 日本百貨通信販売・杉山グループ総帥 杉山治夫の生涯 その4

〝杉山式〟金融債権取り立て法の中身とは

はる坊です。

その3では、杉山治夫が唯一尊敬していた人物・小林大二郎氏に諭され、組織を抜けることを決意し、東京に移り住み、川崎で一年間のヒモ生活を送りながら100万円を元手に金融業を始め、翌年に東京・新宿に拠点を移し、金融債権取り立て屋として名を馳せて、日本百貨通信販売を核とした杉山グループの形成までをご紹介しました。

それでは、引き続き杉山治夫の生涯をみていきましょう。

1983年に貸金業規制法(サラ金規制法)が制定される以前は、貸金の取り立てはまさにやりたい放題だったと杉山が述懐しています。

では、〝杉山式〟金融債権取り立て法の中身をみていきましょう。
これは、サラ金業者に広く伝わり、現在では当たり前、いや、それ以上のことをする業者もいるかもしれません。

ただし、絶対にマネをしたりしないでください。

もし、あなたがマネをして不利益を被ることがあっても、私は一切責任を持ちません。

岡田法律事務所

杉山の元に金を借りに来る人間は、そもそも他の消費者金融から相手にされなくなった人間でした。

そんな彼らに、杉山は金を貸します。それは、どんな相手からでも取り立てる確信があるからです。

貸金の返済期限が過ぎると、日本百貨通信販売 管理本部に関係書類が上がってきます。

ここには、借主の住所・氏名・家族構成・勤務先などが明記されています。

まずは、女性社員が電話連絡を入れて、返済を求めます。

あくまでもやんわりとした口調で、返済意志の有無を確認します。ここで、相手に返済意志があれば、少しの猶予を与えます。

電話が掛かってきた時点で、杉山がどんな人物か、杉山グループがどんな存在かを相手が知っていれば、借主は慌てて返済をしてきたといいます。

しかし、借金に慣れてのらりくらりと返済を渋る態度を見せたり、行方をくらませたりする客も出てきます。

そのときには、〝杉山式幸福の手紙〟なるものが借主に送られます。

杉山治夫 催告状

一番はじめに送る、〝催告状〟と大書きされたハガキは、縁も印字もすべて真っ赤なインクで印刷されています。

こんなハガキを受け取ったら、一体、何事が起こったのかと思います。
このハガキの効果は抜群で、多くの借主は不気味さを覚えて返済をしてきたようですが、それでも、居直って返済をしてこない人間もいます。

そんな人間に対して、〝杉山式幸福の手紙〟はどんどんエスカレートしていきます。

何だか文面がとんでもなくとんちんかんでですが、これはわざとだと杉山が語っています。

読む者に不安感を抱かせるのが一番の目的だと。

このあたりについては、感心はしませんが、長年の経験からか、杉山が人間心理を読むのに長けていたと感じます。

行方をくらませた債務者へ仕掛けるワナ

杉山の取り立てに耐えかねて、行方をくらませる債務者もいました。

ところが、杉山はそんな債務者からも、取り立てを成功させています。

行方をくらませたものの、自分の家がどうなっているかが気になり、闇に紛れて、家の様子を探りにくるのが、人間の心理だと杉山は見抜いていました。

そこで、郵便ポストにこんな返信用ハガキを入れておくのです。

送り主は『日本運命学協会 抽出者現金送付係』

裏面には、債務者に希望を与える文面が書かれていました。

「よかったですね。おめでとうございます」

続けて、あなたに1,620円が当たったという報せが書かれていました。

更に、ダブルプレゼントとして、最高賞金100万円が当たるチャンスの申込書も添えられていました。

債務者は、『日本運命学協会』など知りません。
普通なら気味悪がって、破り捨ててしまうところです。

しかし、切羽詰まった債務者は、ワラにもすがる気持ちで、返信用ハガキに、現住所を書き込んで投函してしまうのです。

『日本運命学協会』の所在地は、東京都豊島区東池袋。

これも、杉山が自らの拠点である新宿区内だと、債務者に勘づかれる恐れがあると、まったく関係なさそうな東池袋に所在地をもってきたのでしょう。

やがて、日本運命学協会を名乗る人間から、債務者に電話連絡が行き、家にいることを確認してから、債務者の元へ向かい、当選金1,620円を手渡しで渡します。

「おめでとうございます。本当によかったですね。これもあなたが常日頃真面目に生きてきたからですよ

債務者(当選者)はありがたそうに賞金を受け取ります。

ところが、現金を渡してくれた柔和な顔をした男の後ろに、獰猛な顔つきの男たちがいることを知って愕然となります。

当選金1,620円をキチンと渡した上で、借金を返済するように強く迫ります。

子どもだましのようなやり口ですが、金に困り、切羽詰まった人間が相手なので、この方法は面白いほど決まったようです。

しかし、1,620円を受け取り安堵している債務者が、そのすぐ後ろに杉山グループの取り立て人が控えていたことを知るやいなや、まさに天国から地獄で、発狂してしまった例もあるようです。

名村法律事務所

杉山グループの本拠地は、なぜ新宿二丁目にあったのか?

さて、杉山治夫とそのグループの拠点は、新宿二丁目にありました。
新宿二丁目といいますと、ゲイバー・ゲイスポットが乱立している場所です。

なぜ、杉山はこの場所に拠点を構えていたかというと、その理由を杉山は、

「わしの俗悪趣味にぴったりだったから」

と語っていますが、この言葉を額面通りに受け取るのは早いと思います。

前述したようにゲイバー・ゲイスポットとして知られる新宿二丁目に拠点を構えることで、不気味さを演出する部分もあったとは思います。

しかし同時に、現在のようにLGBTや同性愛に理解がなかった時代。
そんななかで、たくましく生きている彼らに、世間から忌み嫌われていた杉山は、どこかでシンパシーを覚えていたのかも知れないと感じます。

杉山治夫は、極貧の生い立ちがトラウマになって、弱者に対して必要以上に残酷な取り立てをおこないました。

しかし、必死で頑張ろうとする者には、

「まだ若いんやから、死ぬ気でがんばればなんでもできるやないか」

と励ましの言葉を掛けたり、就職の世話をして、返済の猶予をする一面もあったようです。

-「死んだ気でやればなんでもできるんや」

杉山の取り立て行為はとても許されるものではありませんが、人間は奥深いものです。
鬼畜としかいいようのない言動をみせる人間にも、こんな一面は隠されていました。

しかし、拠点のビル内には、取り立て用のファイルが棚にギッシリと収められていました。

1万件以上の債務者資料が整頓されてファイルされていたのです。

転居者不明・差し押さえ・当て所知らず・執行不要・内容証明・異議申し立て・訴訟和解・興信所調査中・戸籍謄本申請・会社謄本申請・・・

そして、死亡・自殺・一家心中・殺人・逃亡・夜逃げという物騒な項目も。

杉山は取り立て成功率98%と豪語していました。

残り2%は、自殺・一家心中を選んだ方々です。

杉山がどれほど過酷な取り立てをしていたかがわかるエピソードです。

マスコミは、杉山の取り立ての残酷さを報じて、〝極悪人〟の烙印を押しました。

しかし、皮肉なことに、マスコミが杉山を取り上げれば取り上げるほど、〝極悪人〟のイメージが高まりに、杉山の取り立てがはかどったのも事実であったようです。

杉山がマスコミで話題になったときに、取材に来た著名人を紹介すると、フジテレビの須田哲夫アナウンサー・タレントのミッキー安川・漫画原作者の梶原一騎・弁護士の木村晋介・政治家の渡辺美智雄と多士済々です。

いずれも、当時大きな影響力を持っていた人物です。現代的に言えば〝インフルエンサー〟でもあった彼らが、杉山を取り上げるほど、杉山のビジネスは順調に進み、更なるビジネスに邁進していきました。

日本初の腎臓移植ビジネスを手掛ける

杉山治夫は、更なる商売に着手します。

『未来への希望 じん移植 全国腎臓器移植協力会』という不気味な団体を立ち上げ、腎臓移植ビジネスに手を染めるのです。

これには、表に出てこないニーズがあったからでしょう。
杉山の顧客は、都内の上場企業元社長や大地主、また地方の有力者など、

「金で健康が買えるなら、いくらでも出す」

という人物たちでした。

杉山が狙うのは、借金返済にやってくるものの。もう首が回らなくなった人間たちです。
彼らは、自分から臓器提供を杉山に持ちかけるのです。
杉山は本人に意思確認を取り、健康状態をチェックすると、あらかじめ金を掴ませていた医師の元で腎臓移植がおこなわれたようです。

杉山に密着取材していた作家・本橋信宏氏は、その現場に立ち会ったことを、のちに綴っています。

適合性の問題で、どうしても臓器提供者が見つからない場合は、消費者金融で多額の借金を抱えた人間に恩を売り、豪華な食事や酒、そして女をあてがって、説得します。

また、腎臓だけではなく、睾丸まで抜き取って売りつけることもしていたようです。

マスコミに散々叩かれても、杉山はどこ吹く風。

自らを〝現代に蘇った『ヴェニスの商人』のシャイロック〟と呼び、

「借金返せにゃ腎臓を売れ」

-人間の欲望を巧みに金に換えていくのが、自分の錬金術。

-法の裏道は、どこでも抜けられる、それがわしの金銭哲学

と嘯く始末でした。

そんな杉山が50歳を迎える頃、日本はバブル経済に突入します。

バブル期には地上げに進出

バブル経済が始めると、杉山は土地に着目します。

バブル期といえば、同時に株式投資も思い当たりますが、杉山には、株は性に合わなかったようで、あるとき、持株のすべてを売却した直後に、ブラックマンデーが世界の株式市場を襲ったのを見て、やはり自分には土地のほうが合っていると確信したようです。

時は1987年後半。
東京の地価はすでに値が上がりすぎていると判断した杉山は、まだ、値上がりが波及していなかった地方に目を付けます。

第一に、杉山が目を向けたのは、高知県でした。

生まれ故郷の高知で地上げを開始したのです。

杉山自身、イギリス製高級スーツに身を包み、左腕には黄金のローレックスをはめ、足元はイタリア製高級革靴というスタイルで高知に乗り込みます。

東京では、地上げが横行していましたが、高知では、地上げの波は押し寄せていませんでした。
杉山と杉山グループの独壇場となった高知での地上げは順調に進み、やがては、全国に波及していきます。

地上げした土地は高額で売却、あるいは担保にして更なる地上げ資金としていきました。

普通なら、ここでバブルに踊り狂って、破滅の道へ進むところですが、杉山の嗅覚は恐ろしいものでした。

家庭の主婦までが、株式投資に熱中し、一介のサラリーマンが高額の住宅ローンを組んで投資用マンションを争って購入する姿をみて、バブル経済の先行きに危機感を覚えて、バブルが弾ける前に、地上げからスッパリ手を引いていたのです。

何という悪運の強さ。

何という強運の持ち主。

杉山治夫は、まだまだ悪の快進撃を続けます。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。

(その5に続きます。後日更新予定です)

※参考文献・一部引用

杉山治夫『実録 悪の錬金術―世の中金や金や!

杉山治夫『ドキュメント新 悪の錬金術―世の中・金や金や!

杉山治夫『ドキュメント 新・悪の錬金術―世の中・金や金や!杉山治夫・自叙伝

本橋信宏『悪人志願

本橋信宏『心を開かせる技術

長者番付

長者番付を振り返ってみましょうか(1986年分~1990年分 俳優・タレント・歌手&文化人部門)

はる坊です。
1986年分~1990年分の高額納税者公示(長者番付)において、『俳優・タレント部門』『歌手部門』『その他・文化人部門』上位20位までにランクインした面々を紹介させていただきます。

1986年分芸能人・文化人長者番付所得税納税額

俳優・タレント部門

1位  三船敏郎  5億5949万円

2位  黒柳徹子  1億5207万円

3位  林成年   1億4599万円

4位  長谷川稀世   9993万円

5位  加山雄三    8702万円

6位  明石家さんま  8643万円

7位  三田佳子    6627万円

8位  和泉雅子    5557万円

9位  関口宏     5552万円

10位  加藤茶     5539万円

11位  根津甚八    5335万円

12位  森光子     5240万円

13位  山城新伍    4452万円

14位  松本幸四郎   4378万円(二代目 松本白鸚)

15位  田中邦衛    4295万円

16位  市川猿之助   4212万円(二代目 市川猿翁)

17位  二谷英明    4158万円

18位  風間杜夫    4073万円

19位  石原裕次郎   3985万円

20位  石橋貴明    3875万円(とんねるず

※1位にランクインした三船敏郎は、土地売却により所得が急増したことによりランクイン。

※2位の林成年と3位の長谷川稀世は、国民栄誉賞を受賞した名俳優・長谷川一夫の実子で、共に俳優・女優であり、主に助演で存在を示した。

林成年は、大林宣彦監督の『廃市』の弁慶役か、伊丹十三監督の映画『タンポポ』で、高級中華料理でもてなしながら東北大学教授を騙る老詐欺師に投資話を持ちかけるあやしい男役が一番有名か。
この2人のランクインは長谷川一夫逝去に不動産を処分した際の売却益によるもの。

※8位にランクインした和泉雅子は、1960年代に吉永小百合松原智恵子とともに『日活三人娘』と呼ばれた女優。1985年に北極点踏破を目指して、1億円以上の費用を遣い挑戦したものの失敗に終わるが、逆にこの挑戦が話題となり、テレビ出演や講演依頼が殺到してランクインしたと思われる。
なお、1989年に再挑戦して、日本人女性初の北極点踏破者となった。

歌手部門

1位  桑田佳祐    8540万円(KUWATA BAND

2位  森進一     8454万円

3位  美空ひばり   8105万円

4位  五木ひろし   5630万円

5位  北島三郎    4059万円

6位  小柳ルミ子   3890万円

7位  中森明菜    3869万円

8位  玉置浩二    3540万円(安全地帯

9位  高見沢俊彦   3389万円(THE ALFEE

10位  石川さゆり   3376万円

11位  吉田拓郎    3375万円

12位  谷村新司    3265万円

13位  矢沢永吉    2644万円

14位  研ナオコ    2632万円

15位  牧村三枝子   2527万円

16位 井上陽水     2481万円

17位  中島みゆき   2424万円

18位  小泉今日子   2205万円

19位  田原俊彦    2167万円

20位  新沼謙治    2164万円

その他・文化人部門

1位  千宗室   3億2109万円(茶道家元)

2位  小原豊雲  1億6872万円(華道家元)

3位  千宗左   1億6431万円(茶道家元)

4位  加山又造  1億5455万円(日本画家)

5位  高橋留美子 1億4754万円(漫画家)

6位  斎藤都世子 1億4754万円(ニットデザイナー)

7位  北村西望  1億3319万円(彫刻家)

8位  藤本弘   1億3274万円(漫画家 藤子・F・不二雄

9位  安孫子素雄 1億3211万円(漫画家 藤子不二雄A)

10位  高橋陽一  1億2519万円(漫画家)

11位  南大路一  1億2003万円(洋画家)

12位  林良至   1億1803万円(ファッションデザイナー)

13位  嶋田隆司  1億1615万円(漫画家 ゆでたまご)

14位  東山魁夷  1億1584万円(日本画家)

15位  秋本治   1億1117万円(漫画家)

16位  芦田淳   1億0698万円(ファッションデザイナー)

17位  舟越保武  1億0261万円(彫刻家)

18位  中井義則  1億0033万円(漫画家 ゆでたまご)

19位  平山郁夫    9743万円(日本画家)

20位  渡辺貞夫    8958万円(サックスプレイヤー)

マンツーマンのサックスレッスン

※千宗室・・・茶道裏千家前家元15代汎叟宗室。現在の千玄室

※小原豊雲・・・いけばな小原流三世家元

※千宗左・・・茶道表千家13代家元

※12位にランクインした林良至は、ファッションブランド・伊太利屋会長。
フェラーリのコレクターとしても有名で、ガレーヂ伊太利屋の代表も務めた。

1987年分芸能人・文化人長者番付所得税納税額

俳優・タレント部門

1位  黒柳徹子   1億5747万円

2位  京マチコ   1億2870万円

3位  志村けん     9055万円

4位  三田佳子     8338万円

5位  加山雄三     7818万円

6位  滝沢修      7609万円

7位  加藤茶      7553万円

8位  喜多道枝     7395万円

9位  山城新伍     5966万円

10位  大楠道代     5831万円

11位  和泉雅子     5738万円

12位  吉永小百合    5703万円

13位  渥美清      5597万円

14位  森光子      5588万円

15位  薬師丸ひろ子   5425万円

16位  関口宏      5299万円

17位  風間杜夫     5297万円

18位  三浦友和     4878万円

19位  川口浩      4639万円

20位  柴田恭兵     4507万円

※2位の京マチコ、6位の滝沢修、8位の喜多三枝は不動産売却によるランクイン。
時代はバブル経済に入っていた。

歌手部門
1位  園まり    2億5865万円

2位  石井好子   2億5838万円

3位  松田トシ     9825万円(松田敏江の名でも活動)

4位  小柳ルミ子    6943万円

5位  森進一      6385万円

6位  桑田佳祐     5651万円(サザンオールスターズ

7位  五木ひろし    5510万円

8位  高見沢俊彦    5360万円(THE ALFEE

9位  中森明菜     4765万円

10位  北島三郎     4248万円

11位  井上陽水     3926万円

12位  浜田省吾     3543万円

13位  谷村新司     3192万円

14位  中島みゆき    3179万円

15位  矢沢永吉     3120万円

16位  吉幾三      2969万円

17位  長渕剛      2883万円

18位  川中美幸     2767万円

19位  三浦洸一     2549万円

20位  玉置浩二     2504万円(安全地帯

※1位の園まり、2位の石井好子、3位の松田トシは揃って、不動産の売却益によるランクイン。

園まりは、1960年代に中尾ミエ、伊東ゆかりと〝スパーク3人娘〟と呼ばれて活躍したが、70年代以降は芸能界の第一線から退いている状態だったが、弟とともに赤坂に所有していた土地を売却したことで突然のランクイン。

2位の石井好子はシャンソン歌手。

3位の松田トシは歌手として活動後は、後進育成に力を入れ、NHKラジオで〝うたのおばさん〟と親しまれる一方、『スター誕生!』の審査員を務めた際には、出場者に対して厳しいコメントをすることで有名になった。
なお、岩崎宏美岩崎良美姉妹、新沼謙治、神野美伽は松田主宰の音楽教室出身。

※19位の三浦洸一は1950~1960年代に活躍した歌手だが、80年代に入ってから、CM出演や『笑っていいとも』にレギュラー出演するなど露出が増えた。

その他・文化人部門

1位  千宗室    2億4973万円(茶道家元)

2位  藤本弘    1億7946万円(漫画家 藤子・F・不二雄

3位  小原豊雲   1億7542万円(華道家元)

4位  高橋留美子  1億7015万円(漫画家)

5位  千宗左    1億6071万円(茶道家元)

6位  平山郁夫   1億4767万円(日本画家)

7位  車田正美   1億3751万円(漫画家)

8位  斎藤都世子  1億2679万円(ニットデザイナー)

9位  安孫子素雄  1億2675万円(漫画家 藤子不二雄A)

10位  加山又造   1億2325万円(日本画家)

11位  中川一政   1億2520万円(洋画家)

12位  吉田聡    1億0576万円(漫画家)

13位  原田観峰   1億0388万円(書道家)

14位  亀倉雄策   1億0178万円(商業デザイナー)

15位  芦田淳    1億0120万円(ファッションデザイナー)

16位  秋元康    1億0061万円(作詞家)

17位  まつもと泉    9939万円(漫画家)

18位  秋本治      9596万円(漫画家)

19位  玉置宏      9557万円(司会者)

20位  東山魁夷     8859万円(日本画家)

※7位に『聖闘士星矢』の車田正美がランクイン。

※12位の吉田聡は少年KING連載の『湘南暴走族』、週刊少年サンデー連載の『ちょっとヨロシク!』でヒットを飛ばしていた。

『湘南暴走族』が江口洋介主演で実写映画化、並行して制作されたOVAもシリーズ化され、作品人気が高まったことが、ランクインの要因。

※16位の秋元康はフジテレビ系バラエティ番組『夕焼けニャンニャン』の企画・構成を担当し『おニャン子クラブ』メンバーの作詞を手掛けたことで、一躍、時代の寵児に躍り出た。

またこの頃秋元は、1956年生まれと2歳逆にサバを読んでおり(実際は1958年生まれ)、20代後半でランクインをしたことになる。

※17位のまつもと泉は『きまぐれオレンジロード』のヒット。

※18位の秋本治は『こちら亀有公園前派出所(こち亀)』が安定した売上を見せランクイン。
7位の車田正美とともに週刊少年ジャンプ連載陣の強さを見せつけた。

1988年分芸能人・文化人長者番付所得税納税額

俳優・タレント部門

1位  三田佳子   1億3928万円

2位  黒柳徹子   1億2294万円

3位  松本幸四郎  1億2279万円(二代目松本白鸚)

4位  中村吉右衛門 1億1421万円

5位  富士真奈美  1億0569万円

6位  志村けん     9267万円

7位  吉永小百合    8713万円

8位  竜雷太      7134万円

9位  加山雄三     6686万円

10位  ビートたけし   6627万円

11位  山城新伍     6272万円

12位  山田邦子     6239万円

13位  関口宏      5931万円

14位  ケーシー高峰   5808万円

15位  加藤茶      5249万円

16位  大楠道代     4864万円

17位  森光子      4350万円

18位  桂三枝      4300万円

19位  森繁久彌     4175万円

20位  風間杜夫     4170万円

※3位の松本幸四郎(現在の二代目松本白鸚)、4位の中村吉右衛門、5位の富士真奈美は、本業に加えて、いずれも不動産売却益によって所得が増加したことがランクアップ・ランクインの影響。

歌手部門

1位  北島三郎     9573万円

2位  森進一      8834万円

3位  五木ひろし    5295万円

4位  長渕剛      5204万円

5位  桑田佳祐     4460万円(サザンオールスターズ

6位  中森明菜     4401万円

7位  谷村新司     3946万円

8位  高見沢俊彦    3853万円(THE ALFEE

9位  松田トシ     3693万円

10位  浜田省吾     3563万円

11位  土橋安騎夫    3513万円(レベッカ)

12位  吉幾三      3449万円

13位  石川さゆり    3417万円

14位  笈田敏夫     3413万円

15位  川中美幸     3406万円

16位  MIE      3373万円(未唯mie)

17位  NOKKO    3359万円(レベッカ)

18位  飛鳥涼      3188万円(CHAGE&ASKA)

19位  井上陽水     2964万円

20位  中山美穂     2963万円

※14位に登場した笈田敏夫(おいだ・としお)はジャズシンガー。

※16位に登場したMIEはピンク・レディーのミー。
1981年のピンク・レディー解散後は、ミー⇒MIE⇒未唯⇒未唯mieと芸名を変更している。

その他・文化人部門

1位  車田正美   3億1397万円(漫画家)

2位  平山郁夫   2億7840万円(日本画家)

3位  加山又造   2億6182万円(日本画家)

4位  千宗室    2億5345万円(茶道家元)

5位  中川一政   1億7993万円(洋画家)

6位  秋本治    1億7057万円(漫画家)

7位  千宗左    1億3361万円(茶道家元)

8位  斎藤都世子  1億3281万円(ニットデザイナー)

9位  東山魁夷   1億2990万円(日本画家)

10位  小原豊雲   1億2813万円(華道家元)

11位  原田観峰   1億1484万円(書道家)

12位  北村治禧     9103万円(彫刻家)

13位  圓鍔勝三     8355万円(彫刻家)

14位  森英恵      8332万円(ファッションデザイナー)

15位  安孫子素雄    8246万円(漫画家 藤子不二雄A)

16位  秋元康      7886万円(作詞家)

17位  藤本弘      7562万円(漫画家 藤子・F・不二雄)

18位  高橋留美子    7427万円(漫画家)

19位  鈴木健二     7080万円(文筆業)

20位  須田剋太     7067万円(洋画家)

※1位には『聖闘士星矢』が人気絶頂を迎えた車田正美が、前年の7位からランクアップ。

※6位の秋本治も前年の18位、前々年の15位から大幅に所得を伸ばしてランクアップ。

※14位の森英恵は女性ファッションブランド〝ハナエモリ〟の創始者・ファッションデザイナー。

1950年代には小津安二郎監督作品『秋刀魚の味』『秋日和』のほか、
『太陽の季節』でデビューした石原裕次郎主演作『狂った果実』など多くの映画の衣装を担当。

日本人デザイナーの先駆けとなり、ニューヨーク・コレクションやパリ・コレクションに進出。
大好評をもって迎えられ、顧客にはモナコ王妃のグレース・ケリーソフィア・ローレンが名を連ねた。

また国内でも、1983年に創業者・青木定雄の要請に応じて、エムケイタクシー乗務員の制服をデザイン、1988年に美空ひばりの復活コンサートにおいて不死鳥をイメージしたステージ衣装を製作。

1993年には、皇太子徳仁親王と雅子妃の結婚の儀において、雅子妃が着用したデコルテをデザインしている。
現在では、孫の森泉や森星の祖母というイメージも強い。

※19位の鈴木健二はNHKを退職して、文筆や講演活動を中心に活躍した。

1989年分芸能人・文化人長者番付所得税納税額

俳優・タレント部門

1位  中村歌右衛門   1億8150万円

2位  三田佳子     1億2889万円

3位  内藤武敏     1億1773万円

4位  西村晃      1億0473万円

5位  志村けん     1億0123万円

6位  島田陽子       8489万円

7位  黒柳徹子       8443万円

8位  神太郎        6692万円

9位  渥美清        6679万円

10位  加藤茶        6609万円

11位  山城新伍       6469万円

12位  吉永小百合      6455万円

13位  大橋巨泉       6216万円

14位  ビートたけし     5684万円

15位  大楠道代       5554万円

16位  桂三枝        5529万円

17位  加山雄三       5342万円

18位  関口宏        5264万円

19位  薬師丸ひろ子     5207万円

20位  坂東玉三郎      4840万円

※1位に登場した、歌舞伎女形の中村歌右衛門は世田谷区の宅地売却益によるランクイン。

※3位の内藤武敏、4位の西村晃、6位の島田陽子、8位の神太郎は本業に加えて不動産売却益があったため上位にランクイン。

内藤武敏は1950年代から『ビルマの竪琴』『人間の條件』などの映画やテレビドラマで幅広く出演。
また、武田泰淳原作の『ひかりごけ』に強い執着を持ち、1992年に熊井啓監督・三國連太郎主演での映画化に尽力する。
同作はベルリン国際映画祭に正式出品され、高い評価を受けた。

西村晃は『水戸黄門』で二代目水戸光圀(徳川光圀)を演じる一方、味のある悪役を多く演じた。

1928年に東洋初の人間型ロボット『學天則』を製作した北海道帝国大学教授・理学博士の西村真琴の次男としても知られる。
1988年に公開された荒俣宏原作の映画『帝都物語』では、父・西村真琴役を演じている。

意外にも、『川口浩探検隊』以前に1977年7月から1978年1月までに計3回『水曜スペシャル探検シリーズ』という番組があり、その内1回で探検隊長を務め、実際に毒蛇を求めてタイ現地を訪れている。
また、戦時中は特攻隊員であり、出撃後に特攻機不良で基地に引き返し、そのまま終戦を迎えて一命を取り留めている。

同じ特攻隊にいた千玄室と親友同士であったが、この部隊で生き残ったのは、西村晃と千玄室のふたりだけだった。

※8位の神太郎は、ナレーター、ラジオDJ、司会者として活躍したのち、グルメリポーターの第一人者となった。

歌手部門

1位  森進一        8569万円

2位  北島三郎       8288万円

3位  長渕剛        6811万円

4位  松任谷由実      6807万円

5位  井上陽水       6134万円

6位  桑田佳祐       6036万円(サザンオールスターズ

7位  石川さゆり      5863万円

8位  飛鳥涼        5542万円(CHAGE&ASKA)

9位  中森明菜       5498万円

10位  川中美幸       4788万円

11位  松田トシ       4407万円

12位  五木ひろし      4160万円

13位  細川たかし      4129万円

14位  田原俊彦       4039万円

15位  加藤登紀子      4030万円

16位  吉幾三        3894万円

17位  矢沢永吉       3786万円

18位  中島みゆき      3582万円

19位  小柳ルミ子      3565万円

20位  浜田省吾       3552万円

その他・文化人部門

1位  千宗室      3億6753万円(茶道家元)

2位  加山又造     2億7882万円(日本画家)

3位  平山郁夫     2億0470万円(日本画家)

4位  中川一政     1億3359万円(洋画家)

5位  脇田和      1億2879万円(洋画家)

6位  千宗左      1億2758万円(茶道家元)

7位  高橋留美子    1億2727万円(漫画家)

8位  秋本治      1億1585万円(漫画家)

9位  藤本能道     1億1535万円(陶芸家)

10位  原田観峰     1億1338万円(書道家)

11位  片岡球子     1億1160万円(日本画家)

12位  春日野清隆    1億0677万円(日本相撲協会前理事長・元横綱栃錦)

13位  斎藤都世子    1億0641万円(ニットデザイナー)

14位  横山光輝     1億0359万円(漫画家)

15位  車田正美       9049万円(漫画家)

16位  芦田淳        8528万円(ファッションデザイナー)

17位  森英恵        8486万円(ファッションデザイナー)

18位  穐月明        8220万円(日本画家)

19位  藤田喬平       8108万円(ガラス工芸家)

20位  藤本弘        8063万円(漫画家 藤子・F・不二雄)

1990年分芸能人・文化人長者番付所得税納税額

俳優・タレント部門

1位  市村羽左衛門   3億1967万円

2位  三田佳子     1億2885万円

3位  吉永小百合    1億0275万円

4位  沢村貞子     1億0164万円

5位  ビートたけし     9082万円

6位  志村けん       9023万円

7位  中村又五郎      8387万円(二代目)

8位  愛川欽也       7517万円

9位  山城新伍       6698万円

10位  加藤茶        6620万円

11位  三船敏郎       6192万円

12位  黒柳徹子       6011万円

13位  中村吉右衛門     5902万円

14位  関口宏        5667万円

15位  加山雄三       5228万円

16位  浅野ゆう子      5071万円

17位  桂三枝        5040万円

18位  森光子        5020万円

19位  風間杜夫       4930万円

20位  大楠道代       4867万円

※1位に登場した歌舞伎役者・市川羽左衛門は港区南青山の土地を売却したことにより大きな収入を得たのがランクインの理由。
1990年は、結果的にバブル最晩年となったが、全国の長者番付上位100名のうち、95名が不動産売却による、いわゆる〝土地長者だった〟。

※4位に登場した女優・沢村貞子も不動産売却所得によるランクイン