第157回芥川賞受賞作 沼田真佑「影裏」の感想。

7月19日に築地4丁目の料亭「新喜楽」で第157回芥川賞・直木賞の選考が行われました、
芥川賞には、沼田真佑氏の「影裏」(えいり)(文學界5月号)。
直木賞には、佐藤正午氏の「月の満ち欠け」(岩波書店)が選ばれました。

さて、沼田真佑氏の「影裏(えいり)」は、Amazonで確認してみると、書籍は新刊で1,080円。Kindleだと、900円です。
中古だと400円台~ になっています。(2018年11月30日時点)
新刊は7万部発行されました。

わたしは、今村夏子氏の『星の子』が受賞するんじゃないかなと予想していたので、文學界5月号で、沼田氏の受賞作を読んでいたものの、もう一度、読み直しました。

まず、全体から言いますと、短いです。
まあ、短編小説ですから、そう言ってしまうと身も蓋もないのですが。
しかし、短いからと言って、簡単に読み進めさせてくれない印象を持ちました。
文章が読みにくいとか、文体が独特でとっつきにくいだとか、表現が個性的だというのではありません。
文章が読みやすいし、真摯で的確です。
全体にミステリアスな雰囲気を醸し出しています。
ありきたりの言葉でいえば、《深い》。
そして、読み手に油断をさせない何かがある。
なので、簡単に読まさせてくれない小説だという感想を持つに至りました。

ストーリー(あらすじ)を簡単に説明すると、『盛岡市に転勤になった主人公が、日浅という男と、趣味の釣りを通じて親交を持つようになった、男ふたりの話』です。
釣りの描写は本当に素晴らしいです。
釣りを趣味とされている方なら、思わず感心してしまうのではないでしょうか。
私も釣りをしますが、「釣りのシーンをここまで書ける人っていないんじゃないかなあ」と感じました。

受賞インタビューで、「東日本大震災やセクシャルマイノリティの問題に向き合った」と、記者からネタバレのような質問があったのでそれ以上は省きますが、そういうところも、直截ではなく、読者に想像を拡げさせるように書いている。
私としては、そう感じました。
2017年8月10日に発売された文藝春秋では全文と選考委員の選評が載っています。
選考委員の選評をを読むと、下記の構図が浮き上がってきます。
積極的に賛成:山田詠美・吉田修一・高樹のぶ子・島田雅彦
消極的に賛成:堀江敏幸・川上弘美
反対:村上龍・奥泉光・宮本輝
選考委員9名のうち、過半数の票が集まれば授賞となりますので、
○が4人で4票。△が2人で1票の合計5票で授賞となったと思われます。
もっとも、選評を書くのは選考会が終わってからですので、選考会での賛成・反対と、選評では言葉のニュアンスが変わっていることがあります。

初めて作者のお姿を拝見したときは、寡黙で真面目な文学青年というイメージだったのですが、
『ジーパンを一本しか持っていないのにベストジーニスト賞をもらった感じ』というコメントは素敵でした。
最初のイメージを、ひとことで変えてしまった。
それによって、グッと作者の魅力が増しました。

さて、なぜ芥川賞と直木賞の選考が、「新喜楽」でおこなわれるのか?
それは、東京でも老舗の料亭であり、政財界のトップがよく利用したように、店側の口が堅いことで有名であるのが大きいようです。
文藝春秋新社の初代社長(文藝春秋は1946年に戦争協力をしたとのことで解散に追い込まれています。)の佐々木茂索が、新喜楽の応援団的存在である「新喜楽後援会」メンバーだったこともあるのでしょう。
また、これは私見ですが、1961年(昭和36年)から、長年に渡って選考会場になっていますので、店側もいろいろと心得ていて、賞を主催する日本文学振興会(文藝春秋)も使い勝手がいいと感じているのかもしれません。
さらに、名のある老舗の料亭で選考会を開くことによって、芥川賞と直木賞のブランド力を維持しようという目的もあると思います。

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